横須賀に暮らす人々の思い出が詰まった味や店を紹介する連載「横須賀ローカルフード図鑑」がスタート。第1回目は、ローカル民にとって「弁当屋と言えばここ」と、多くにその名を知られる『ごはん亭』をフィーチャー。
横須賀ローカルにとってお弁当屋さん=『ごはん亭』
黄色地に赤い文字で書かれた「ごはん亭」の看板は、横須賀で育った人にとって馴染みのある風景のひとつではないだろうか。窓口に並んで注文する昔ながらのカウンター形式。店の前で数分待った後、炊きたてのごはんと出来たてのおかずが詰まったお弁当が手渡される光景は、長年に渡るこの街の日常だ。「のり弁」430円、「からあげ」弁当540円(共に取材当時)など、お財布に優しい価格も支持され続ける理由かもしれない。
市内にある店舗のうち、今回撮影に訪れたのは京急久里浜駅前にある『ごはん亭 久里浜店』。運営しているのは『よこすか海軍カレー』ほか、市内で業務用食材の販売を手がける『ヤチヨ』だ。お話を聞かせてくれた同社の鈴木孝博社長にとって、久里浜店のある場所は両親がかつて食堂を営んでいた思い出の地でもあるのだという。
最盛期は40店舗以上! 誕生のいきさつとこれまでの歴史
『ごはん亭』の歴史は1980年代にまで遡る。横須賀の老舗米屋『むらせ』の先代社長が、東京・青山にあった弁当屋の先駆け『青山ごはん亭』の人気ぶりに着目。業務提携して、横須賀1号店をオープンしたのがきっかけだ。
その当時は外食文化が浸透し始めたばかり。「ごはんは家で作るもの」というのが世の常識で、コンビニエンスストアはおろかスーパーのお惣菜コーナーも今ほど広まっていなかった。しかし共稼ぎの家庭が増えつつあった時代の流れにも後押しされ、作り立てのお弁当が買える『ごはん亭』は横須賀でも大人気となり、続々と新店がオープン。経営に参入する企業も増え、全盛期には三浦半島界隈だけで40店舗以上もあったのだとか。
「炊きたて・出来たて」へのこだわり
今も昔も変わらない看板メニューは、海苔を載せたごはんとボリューミーなから揚げが自慢の「のりから」弁当480円(取材当時)。「のりからころ」(のりから弁当にコロッケをトッピング)といった独自の略語で注文するのが常連客である証だ。中華風に味付けしたから揚げが食欲をそそる「さんぞく」弁当もファンが多い。
根強く支持されているカレーも含め、おかずの味付けは各店舗のオリジナル。受け継がれてきた味を大切にしながらも、各店が自ら考えメニューのバリエーションを広げ続けるのが “ごはん亭流”なのだ。
もちろん、店名でもある「ごはん」にもこだわりがある。創業当時から『むらせ』が厳選したブレンド米を使い、大釜でふっくら炊き上げることでおいしさを追求している。「4升釜と5升釜で炊き比べると、5升釜のほうがなぜかごはんがおいしい。だから久里浜店では5升釜を使い続けているんですよ」と鈴木社長。全メニュー値段はそのままに、白米を雑穀米に変えられるのも嬉しいポイントだ。
親子2代、3代と、愛され続けて40年
創業から40年以上が経ち、コンビニやスーパーのお弁当が一般に普及、弁当屋を取り巻く環境は変化しつつある。高齢になったオーナーの引退もあって、横須賀に残る『ごはん亭』は現在5店舗にまで減ってしまった。
「忙しい人が増えたので、注文してから5分待つのも長く感じるのかもしれません。それでも、いつも買いに来てくれる常連さんや、親子2代、3代と通ってくれるお客様がいます。私たちは冷凍や作り置きではなく、炊きたてのごはんとで出来たてのおかずで食べる人に元気を届けたい」と鈴木社長は話してくれた。
地元民に愛され続けてきた『ごはん亭』の味を、これからもずっと守り続けていくために。まずは旨みたっぷりのから揚げとほかほかのご飯を食べる幸せ、「のりから」でじっくり堪能してみては?
Staff Credit
Written by Aki Kiuchi
Photographed by Io Takeuchi
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