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『木古庭コーヒー』が生まれるまで その②〜

2026-02-02Knot

葉山の築100年の重厚な古民家を改装しオープンした、”木古庭コーヒー”を追う本連載。第2回目は、中心的な役割をコーヒー豆と担う、バリスタさんに話を聞いた。 オープンからバリスタを務めているのは家入嶺馬さんだ。

豆は地元の業者と提携。準備期間から木古庭コーヒーに関わって

家入さんは23歳。大学3年生の時にバリスタの専門学校に通いはじめ、ダブルスクールをしていたときに木古庭コーヒーと出会った。 オーナーである澁谷さんと、自身の伯父が親交があったため、バリスタをやってみないかとオファーを受けたそうだ。そこからはとんとん拍子に話が進み、2025年の6月ごろからオープンの準備に関わることとなる。
「飲食店としてのオープン準備は整っていたので、僕はコーヒーの機材を選ぶくらいで、豆の仕入れやレシピなど、ソフト面で関わりました」
オープンまではとにかく「手探り」だったという。
「それは今もです。オーナーの澁谷さんも、『まずは走らせてみよう』という方針で。僕はバリスタの勉強はしていましたが、開業経験などはありません。スタッフの方も当然ですが年上ばかり。そんな若い僕に多くを任せてくださいました。準備の二か月間、暑い中自転車で通って、正直ハードでした。でも、ゼロから作り上げる体験をしたというのは大きくて。自分でどういうコーヒーがおいしいか、お客さんの動線を考えたり、楽しくやっていました」
2025年8月にプレオープンを迎え、バリスタとして、いちスタッフとして、木古庭コーヒーに関わってきた。鍵となるコーヒー豆は、地元のコーヒー業者から仕入れることが澁谷さんと家入さんのこだわりだ。
「自分がバリスタになりたいと思ったきっかけが、3年前から始まった、『横須賀コーヒーフェス』でした。浅煎りのスペシャルティコーヒーを飲んで、”苦くないコーヒーもあるんだと衝撃を受けて。豆の仕入れは『豆工房コーヒーロースト 横須賀店』さんです。オリジナルのブレンドを組んで欲しいとお願いして、6・7月は何度もお店に通いました」 
『豆工房コーヒーロースト 横須賀店』は注文を受け、小型ガス焙煎機でローストする、オーダー焙煎専門店。横須賀の街ではおなじみだ。 

オリジナルのブレンドを作るという挑戦

複数の豆を使うブレンドコーヒーは、豆の組み合わせ、比率、煎りのバランス、淹れ方で味は違ったものになる。「とりあえずブレンド」といったように、店でのオーダーが多く、いわば店の顔のひとつだ。
「豆は5種類ほど使い、深煎りと浅煎りのバランスを取りました。表現したいコーヒーと、お店の雰囲気、どちらにも合うように考えて、「木古庭コーヒーブレンド」を作り上げていったんです」
こだわったのは、酸味。最近のスペシャルティコーヒーブームに沿った形だ。そのため、酸味が特徴のエチオピアとモカを選んだ。他の豆は季節によって変えているので、シーズンで違った味が楽しめる。
「ただ、酸味は苦手な人も多いんですよね。苦味だけだと、”いつものコーヒー”で終わってしまうから、木古庭コーヒーブレンドを選ぶ意味がなくなってしまう。酸味はほとんど感じないくらいのバランスです。お客さんがおいしいと思ってもらえるものを作ったつもりです。レシピはありますが、調整も可能にしています」
コーヒーを淹れると一口に言っても、蒸らしのバランス、お湯の量で味は変わる。湿気具合、保存状態といった豆のコンディションも同じではない。例えば、最初にお湯を多めに淹れれば酸味が多めに出て、蒸らしを少なくすると甘味が出る。その日の豆のコンディションを測り、飲んで調整するのもバリスタの大切な仕事だ。
豆の仕入れは様々なところから行っている。『SPECIALTY COFFEE BEANS No.13 (スペシャリティ コーヒー ビーンズ ナンバー13)』は店主である野口さんと元々つながりがあり、「浅煎りのおいしいコーヒー」を調達してもらっているそうだ。 
家入さんは横須賀市生まれ。幼少期から横須賀で過ごしてきた。元々父親がコーヒー好きで、家には道具が揃い、家族に淹れてくれることもあったそう。
「自分にも道具を買ってくれたんですけど、その時はふーんっていう感じでした。ミルで豆を挽いてみたり、ハンドドリップをやってみたりはしていましたけど、豆の種類やコーヒーのおいしさに関しては、まだまだ解像度も低かったです」
転機が訪れたのは、横須賀で開催されたコーヒーフェスだった。実は、前述の野口さんが主催で行われている。
「浅煎りのスペシャルティコーヒーを飲んで、「苦くないコーヒーもある」と衝撃を受けて。自分でも豆を選ぶようになりました。それからコーヒーにハマっていきました」
就職活動を考えたときに、何十年後にどうなりたいと考えたそうだ。「ダイレクトにお客様に届く仕事がしたい」と考えた家入さんは、コーヒーにたどり着く。そこからダブルスクールで専門学校に通うことに。
「身近だったし、これならできるかも。かっこいいし、くらいの感覚でした。こんなに大変だとは思わなかった(笑)」
それから、週に3日は専門学校で、週1大学に通う日々。バリスタとしての技術や接客方法、経営のノウハウを身に着けることに加え、大学の卒業論文も自分で進めなければならなかった。どちらも無事に卒業を迎えられたそうだ。

自分たちで作り上げる難しさと面白さ

木古庭コーヒーには、バリスタがコーヒーを淹れるところをのぞけるバーカウンターがある。家入さんがこだわった部分だ。
「ここを見てほしいという場所です。コーヒーを淹れる所作を魅せること、お客さんとコミュニケーションをとるというのは、学校で学んだことのひとつです」
なぜわたしたちは、コーヒーを飲みに出かけるのか。それは、おいしさを味わうとともに、”コーヒーを淹れてもらう体験” にも価値を感じるからだ。
「豆の焙煎、生産者さんのお話、ストーリーも含めてコーヒーを飲むという体験です。”スペシャリティコーヒーを出す、古民家カフェ”というコンセプトをしっかり守るには、バリスタが積極的にコミュニケーションを取ることもお店の一部です。来てくれた人を大切に、くつろいでほしい。ありがたいことにリピーターさんも増えてくださって、近所の方が訪れてくれるようになりました」
カフェ業界では、実はリピーターは多くない。それを知っているからこそ、初来店のお客様がリピートしてくれるのが嬉しかったそうだ。
「駅前のカフェとは違う立地ですし、わざわざ足を運んで2回目に来てくださるわけです。リピーターが思った以上に多かったのは、うれしい誤算でしたね」
元々は観光客をメインターゲットと想定していたが、横須賀、逗子、葉山といった地元の人々が、老若男女訪れてくれたのだとか。がメインで来てくれた。
「栃木のいとこがはるばる足を運んでくれたり、友人が熱海や立川から車で来てくれたりしました」
家入さんは、2026年の4月から、コーヒー関係の会社に就職する。現場を知ったことは、大きな経験となったようだ。

ゆったりとした時間を、止まり木で過ごす

新たなバリスタは、家入さんの後輩。横須賀の地域プロジェクトを一緒にやったことがあり、コーヒーへの熱意あふれる若者だという。
「連続して5杯、6杯と淹れる時もあるわけで、同時振興でも、均等においしいコーヒーを作らなければならない。最初から自分は期限付きのバリスタでしたので、コーヒーのレシピに再現性があるかは非常に重視しました」
木古庭コーヒーブレンドの評判は高く、グラム単位での販売も検討中だ。これから、イベントもさらに積極的に開催していくという。実は家入さんは、もともと本格的に将棋をやっていた経験者。今でも将棋は好きだという。
「地域のハブになりたい、というのは、木古庭コーヒー関係者全員の願いです。将棋のイベントもその一環。形は違っても、これからも関わっていく予定です」

ミルクブリューコーヒーのように

木古庭コーヒーの密かな人気メニューに、「ミルクブリューコーヒー」がある。我々KNOTの面々も、一口飲んで魅了された。いわゆる水出しのコーヒーをミルクで作るものだ。
「学校で飲んだのがきっかけで挑戦しましたが、味の調整が難しくて。何度も試作して辿りついたレシピです」
レシピ自体は牛乳に浸して8時間待つだけ。そのぶん、味の調整が肝心だ。じっくりと、豆の持つコクや旨味が溶け出し、コーヒー本来の酸味や苦みとまろやかさが両立した味わいになる。
木古庭コーヒーも、ミルクブリューコーヒーのように、試行錯誤を重ねている。 葉山・横須賀の人々の居場所、地域のハブとなる、「8時間後」は、もうすぐだ。
Staff Credit
Written by Naomi Uno
Photo by Io Takeuchi
Information
住所:三浦郡葉山町木古庭1620
営業時間:金土日 10:00〜17:00
駐車場:6台あり

※営業時間の変更やイベントの情報などInstagramで発信しています。ご確認の上ご来店ください。 
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