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「食」から攻める地域活性〜大根でフルコース〜【三浦半島みらいミーティング②】

2025-03-04Knot

三浦半島地域の活性化に意欲のある事業者がさまざまなテーマでディスカッションを行う「三浦半島みらいミーティング」が開催されている。 2024年11月に実施された第2回のテーマは「食のアップデート」。食材の宝庫と呼ばれる三浦半島で特に生産が盛んな大根にフォーカスし、その魅力を存分に活かすレシピ開発ワークショップが実施された。講師には合同会社MISAKI STYLE代表で三浦市で「朝めし あるべ」を営む菊地未来さんが登壇。ゲストとして三浦大根の魅力を伝える著書などがある吉田和子さんが料理を実演披露した。

三崎はマグロだけのまち?「鮮魚を一切使わない朝めし屋」が語る三浦野菜の魅力 

全国有数のマグロ水揚げ地として有名な三崎で飲食店を営む菊地さん。建築学を学んだ経緯から空き家再生を自らの使命と感じ、三浦野菜や地卵、地魚の干物を中心にすえた朝食を提供する店を開いている。三崎のマグロや地魚の美味しさを伝えるお店は多くあれど、もっと三浦野菜の魅力を伝えたいとの思いから、鮮魚は一切使っていないのが特徴だ。
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農家と漁師を営む親戚がいる菊地さん。幼い頃から家には「おすそわけ」でもらった地元産の魚介や野菜が豊富にあったそう。膨大な量をどのようにして消費するか、毎日の献立を考えるうちに美味しい食べ方に関する知識は身についていった。
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『大根は1世帯で1本消費できるはずなのに、スーパーではみんなカットされたものを買っている』 美味しく、楽しく、経済的に。大根の持つ潜在能力を最大限引き出す料理を教えてくれた。
『ただしその前に』と紹介したのが、”大根のプロフェッショナル” 吉田さん。三浦の大根の歴史やその美味しさについて語ってくれた。

地元でも主流は青首大根。三浦大根は「いつ消えてもおかしくない」

市内外の料理教室やテレビ・新聞等で様々な三浦大根を使ったレシピを紹介する吉田さん。現在の三浦半島では青首、三浦、レディサラダなど複数の種類の大根が育てられているが、『嫁いできた60年ほど前、三浦半島は三浦大根しかなかった』と振り返る。転機は1979年秋。暴風を伴う台風で収穫前の大根ほとんどが壊滅してしまった。その後、青首大根の種が持ち込まれ、その栽培のしやすさから主流となり、現在は出荷の9割以上を占めている。
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三浦大根の特徴は “煮ても煮崩れないやわらかさ”。地元の高齢者の中には『正月のなますは三浦大根で』という人もいるという。しかし、土壌を選ぶ性質や、小売りしづらい大きなサイズということもあり、年々生産量は減少。『いつ消えてもおかしくない状態』だと顔を曇らせて話した。 
40種類以上の大根料理のレシピを持つ吉田さん。三浦大根の魅力を伝える活動を続ける中で、『一人でも語り継いでいることが大事。辞めちゃだめだよ』と関係者にかけられた言葉が胸に残る。日本で伝統食がどんどん消えていく中、三浦大根の料理を伝えることに使命を感じている。

揚げたり、焼いたり、漬けたり、和えたり。無限のバリエーションに参加者が舌鼓

2人による説明を終えると場所をキッチンに移し、お待ちかねの実演調理に。『果たしてどんな料理が出てくるのだろう?』参加者の期待の中、菊地さんから最初に提供されたのは大根を薄くスライスしたくずきり風。吉田さんが作った手作りいちごジャムをのせたデザート風の一品に感嘆の声が上がった。
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「頭の部分は辛みが少ないため大根おろしに、尻尾の方は苦みがあるのでみそ汁の具に」というように料理によって適した部位があることや、「食べる直前にスライスすることでより新鮮な風味を味わえるという」といった調理アドバイスも随所にみられた。
そのほか、レディサラダをおろしたものに、鶏ガラスープ、エビ、長ネギ、片栗粉、小麦粉などを混ぜた大根餅を胡麻油で揚げた創作料理や、縦に割った割干し大根でつくったはりはり漬け(醤油漬け)、レディサラダを使ったキムチ、さらにはレディサラダを使ったカレーまで提供された。 
揚げたり、和えたり、漬けたりと、多種多様な調理法で、大根は様々な顔を見せてくれる。特に参加者の中で好評だったのは、吉田さんの著書にもある大根ステーキにベーコンを合わせたもの。 
『ベーコンの脂のしつこさを大根のさわやかさが受け止めてくれる!』と20代の参加者は食指が止まらない様子だった。
口直しにはレディサラダの甘酢漬け。三浦で開発されたレディサラダは皮が赤く中は白色。漬け具合によって白い部分が赤く色づいていくため、作る人によって仕上がりが異なるという。 
参加者が『吉田さんが思う一番美味しい大根の食べ方は?』と尋ねると、『ふろふき大根』と答える場面も。料理研究家とTVで共演した際、絶賛されたという。
参加者からも『私は水で戻した切り干し大根をペペロンチーノに』といったアイデアも飛び出し、”大根とミカンの蒸し料理” といった創作料理もその場で生まれた。
教育や海業に携わる20代の参加者は『地域の魅力や課題を互いに共有できたことが嬉しかった。また和子さんの”1人が騒げば残る。”という言葉に胸を打たれた。』と感想を述べた。また農業体験事業に携わる女性からは『体験者にレシピや野菜の楽しみ方を幅広く提案できそう。五感を使って三浦半島の魅力を体験してもらいたい。』という声も上がった。
実習・ワークショップを終え、吉田さんは日本全国で伝統野菜が消えている現状を踏まえて「三浦半島ではブランドのある三浦大根、せっかくなら残していきたいと思う。皆さんが買ってくれないと農家も作れないので、ぜひ気に留めてほしい」と力を込めた。
廃棄大根を農家からもらう機会が多いという菊地さん。今後はそうした廃棄野菜を加工する工房を設立するビジョンもあり、『より多くの人に野菜を無駄なく、美味しく楽しめる機会を提供できたら』と会を締めくくった。
次回は「モノ」ではなく「体験」を商品として売り出すことで地域を盛り立てていく、ソウ・エクスペリエンス株式会社の代表・西村琢氏を招き、「体験ギフト」を活用した新たなビジネスについて考えていく。 
Staff Credit
Written by Kaito Nakahigashi
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