Now Reading: “泊まれるブルワリー”の立ち上げ。専門分野は副業人材に【副業・兼業人材活用事業】

Loading
svg
Open

“泊まれるブルワリー”の立ち上げ。専門分野は副業人材に【副業・兼業人材活用事業】

2026-03-27Knot

少人数で立ち上げた中小・小規模事業では、軌道に乗って職務の幅が広がるにつれて人手不足に直面するケースは少なくない。「目の前のことで手一杯」「専門分野の知識が社内に不足している」。挑戦するエネルギーはあるのに、それを支えるリソースが足りない——。その一つの解決法が副業・兼業人材の活用だ。神奈川県が実施する「副業・兼業人材活用事業」では、地域課題の解決や新事業に挑む三浦半島の事業者と、専門スキルを持つ人材を副業・兼業の形でつなぐ取り組みだ。2025年同事業に参画し、新規事業に副業人材を活用している(株)クラフトガレージ(三浦市三崎)に話を聞いた。

初めての宿泊事業 現役のホテルオペレーターが予約システムを構築

同社は潮風香る港町・三崎でビールの醸造と販売を手掛ける『MIURA brewery』を運営する。代表の小松哲也さん(67)は「自然・文化が豊かな三浦を、時間を気にせず楽しんでほしい」という思いから、2025年12月に店舗の2階にゲストハウスを開業した。元外資系金融機関の在日法人で社長を務めるなど異色の経歴を持つ小松さんだが、宿泊事業をゼロから立ち上げるのは初めて。開業に際しては必要な準備や手続きに追われ、特に集客促進の要となる予約サイトの構築には高いハードルを感じていた。 
転機は昨年9月。神奈川県が発信する事業者向けの情報をチェックする中で副業・兼業人材活用事業について知った。当初は採用について「同じ問題意識を共有して、幅広い業務を任せたい」とフルタイムの人材を希望していたものの、ゲストハウスのオープンを同年12月に控える中、開業に間に合わせるためには専門人材の確保は必須。
早速参画を申し入れ、マッチした副業人材に予約サイトの構築、各オンライン旅行会社(OTA)とのやり取りなどを依頼し、現在までに公式HPのほか、Booking.comやAirbnbといった宿泊予約サイトや民泊プラットフォームでも予約を受けることができるようになった。

採用に苦戦する中での一つの選択肢

前職では新卒・既卒問わず数千人以上の面接を担当し、20~30のエージェント会社とのやり取りを経験するなど、採用業務にも長く携わってきた小松さん。「ここ20年はどの企業も人材確保が難しい」と恒常的な人手不足に苦い顔を見せる。
「この人で間違いないと思ってもすぐに辞めてしまったり、逆に当初は期待していなくても大化けすることもあったり。いくら経験を積んでも正解はわからない」と採用活動自体の難しさも感じている。会社のあり方として、経営者と従業員が同じ問題意識を持ち、事業を共に進めていくことで双方が成長していくモデルを理想としている一方で、「大きな経営母体のない我々のような事業者は、確実性の高いビジネスモデルが提示できない」と中小企業・小規模事業者ならではの課題も感じていた。

本業で培ったスキルを発揮 新たな挑戦も

「これまでの経験を生かした上で、新たなチャレンジも出来たと思っています」――。クラフトガレージでゲストハウスの予約システムの構築を手掛けたIさん(21)は、今回の副業体験に確かな手ごたえを感じている。
小規模のゲストハウス事業は、宿泊施設を作っただけでは営業を回していくことは難しい。いつでも・どこからでも予約や問い合わせが出来るHPの作成や、代理店との契約は必須となる。これは誰でもできるものではなく、施設の特長や予約サイトの枠組みを捉えた見せ方・売り方をきめ細かく設定する必要があり、知識や経験に依拠する部分の多い作業だ。
本業でホテル開発・立ち上げ事業に関わっているIさんは“ブルワリー併設”という特徴を持ったゲストハウスの予約サイト構築は初めてだったが、各予約サイトの利用者層に合わせて掲載内容をカスタマイズ。公式サイトでは、宿泊者限定で使用できる10リットルのビール樽の写真を掲載するなどしてビールマニアへの訴求を意識した一方、代理店のページでは素泊まりプランのメニューを掲載して一般の宿泊客へのアピールを図った。
当初は部分的な関わりをイメージしていたが、実際には自分からアイデアを出す機会も多く、「本業にも生きる経験を積めました」と充実感を口にした。

時間と場所の制約に課題も「期待以上の働き」

Iさんが働くのは本業を終えた夕方以降の限られた時間。リモートでの作業が中心となり、業務連絡はチャットツールで行われたが「夜遅くに連絡を入れることに遠慮があり、コミュニケーションの難しさはあったと思う」と副業・リモートワークならではのネックを感じたという。
小松さんも「当然のことだが、現場で密に関わる正社員と比べたら意思疎通に壁があった」と同様の課題感を持っていた。とはいえ、予約サイトの構築もほぼ完了しており「期待以上の働きをしてくれた。正社員として引き続き携わってほしいくらい」とIさんを高く評価している。

副業になじむ業務とそうでない業務 稼働時間とKPIの共有が鍵

「どの会社も副業人材を活用すればよい、というわけではない。」約半年の受け入れ期間を終えた小松さん曰く、副業という雇用のあり方がなじむ職場とそうでない職場があるという。 
プロジェクトマネジメントやスタートアップでは臨機応変な対応が求められることが多く、労働時間などの制約がある働き方では必ずしも思い通りの働きができるとは限らない。そのため「労働時間とKPI(目標の指標)を明確に定めることが、雇用する側と副業人材双方の働きやすさにつながるのでは」と経験を踏まえて語った。
とはいえ副業人材と関わった期間は半年ほど。「即戦力としては大きな力になったが、これからも継続的に関わることに本当の価値がある」と、引き続きIさんに業務を担ってもらえるように調整中だ。地域と人材が関わり合いながら学び合い、ともに育っていく。そのきっかけとして、副業人材という関わり方が広がっていくことが期待されている。
svg