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次世代につなぐ食育事業 ドローン人材がPRをお手伝い【副業・兼業人材活用事業】

2026-03-27Knot

地域課題の解決や新事業に挑む三浦半島の事業者と、専門スキルを持つ人材を副業・兼業の形でつなぐ神奈川県の「副業・兼業人材活用事業」。単なる人員不足の補填ではなく、外部視点を取り入れた「新たな挑戦」を通じて、地域活性化と継続的な関係人口の創出を目指している。 昨年同事業に参画した株式会社シテコベ(横須賀市長井)は、農業体験やシェア畑に関するPR戦略を専門人材に依頼。インスタグラムに投稿されたPR動画では親子連れや子どもたちがにぎやかに畑を耕し、野菜を収穫する姿や、農園からズームアウトして海を臨むダイナミックな構図が収められている。副業人材を活用した背景や業務に対する手ごたえについて、同社代表取締役の嘉山淳平さんに聞いた。

誰もが農家になれる“シェア畑構想”も、広報に課題

季節に合わせた野菜の収穫や、漁師から直接教わる魚のさばき方教室などの体験事業のほか、『ソレイユの丘』内の体験農園『シテコベ サステナブルファーム』の運営などを行うシテコベは2025年、会員制のシェア畑『シテコベ ファーマーズクラブ』の構想を打ち出した。
誰もが気軽に農業を始められ、自分で作った野菜を収穫する喜びを味わってもらうために準備に取りかかったが、会社は主力事業である農業・漁業体験で手一杯。個人のほか、学校や企業といった団体向けの案件を年間で100件以上請け負う中では、「サービスの開始はできても、人を呼び込むための広報活動には手が回らなかった」と嘉山さんは振り返る。そうした中で神奈川県の主催する副業・兼業人材活用事業は、まさに“渡りに船”であり、迷わず参画を決めたという。

「口コミ頼り」からの脱却へ 迫力ある動画で認知拡大

これまで同社の広報活動は、体験事業の参加者によるSNS投稿や口コミが中心だった。地域に根差した活動ゆえに既存顧客からの信頼は厚かったが、自社からの発信力が弱く、まだシテコベを知らない層へ魅力を届ける手段が限られていた。特に新事業である「シテコベ ファーマーズクラブ」の認知拡大には、従来の延長線上ではない、視覚的にインパクトのあるプロモーションが必要だと感じていた。
そこで、副業人材として参画したメンバーらと共にPRチームを結成。公式Instagramの運用を本格化させた。特筆すべきは、ドローン技術を用いたダイナミックな映像表現の導入だ。
三浦半島の豊かな自然と、畑で土に触れる人々の生き生きとした表情を空中から捉えた動画は、単なる情報の羅列ではなく、現地の空気感やワクワクを直感的に伝えるコンテンツへと昇華させたことで、遠方に住む潜在顧客に対しても「ここに行ってみたい」と思わせる強力なフックを作り出した。口コミ頼りだった広報スタイルは、戦略的なデジタル発信へと大きな転換を遂げた。

「これなら私も戦力に」憧れの農業にドローン技術で初参画

ドローンを使った動画の撮影を担当した飯田愛さんは横浜市在住。かねて三浦半島での起業を検討していたが、居住地との移動時間や子育てとの両立で一度は断念したものの、フルタイムではない副業という働き方で三浦半島との関わりを持つことが叶った。
ドローン操縦の国家資格を持ち、普段は横浜市と平塚市でドローンスクールのインストラクターとして活動する傍ら、畑から海を臨む三浦半島ならではの風景をドローンを使って迫力ある映像で記録した。撮影した素材を基にインスタグラム用の動画の編集を行い、現在までに6本を投稿した。メールマガジンやマーケティング施策など、他分野で副業人材として働く他のメンバーと定期的に進捗を確認し、互いに歩調を合わせながら ”シテコベのPRチーム” として業務を進めていった。多忙な嘉山さんと連絡が取りにくい時期は、スタッフ自らアイデアを前に進めた。

柔軟な就業規則で優秀な人材を確保

「仕事が早く行動力があって、本当に助かりましたね」。多忙の中、長らく後回しになっていたLINEアカウントの開設について、愛さんは「やりましょうか?」と一言ですぐさま実行。予約の簡略化、限定イベントの告知などで見込み客との繋がりの強化を図り、嘉山さんは「自分が細かい指示をしなくても勝手にプロジェクトが進み、いつの間にか形になっていた」と目を細める。副業人材活用のコツについて聞くと「人材を企業の風土に当てはめるのではなく、企業が人材に合わせた働き方を提供すること」と明かしてくれた。
シテコベは副業人材として受け入れた飯田さんに限らず、働く時間や場所、連絡手段など、働き方がスタッフそれぞれで異なる。「就労条件を柔軟にすれば、優秀な人がたくさん集まる。新卒採用よりも格段に即戦力である点も魅力でした」と手応えを語った。
ただし、今回の副業人材の受け入れでは後悔したこともあったという。副業人材への謝礼は現金ではなく『畑で採れた野菜のお裾分け』。「実質的に謝礼は0円なのだから、こちらも明確な作業の目標や期限を設定できなかった。そこは飯田さんたちに申し訳なかったし、反省しなくちゃ」。
その一方、「単に収入をいただくのではなく、お金では買えない経験を得ることができたのが大きかった」と前向きに捉えた飯田さん。シテコベで働いたことで、子どもたちに農業の魅力を伝える教育の分野にも関心が出てきたという。
副業という形が生んだのは、単なる労働力の補完ではない。情熱が伝播し、新たな夢が芽吹く良質な循環だった。
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