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美酒と音楽、時々おにぎり「ヨネヤ」

2024-01-25Knot

横須賀中央駅から歩いて10分ほど。『上町銀座商店街』の1本裏手を進んでいくと、趣のある蔵造りの建物が見えてくる。築100年の米問屋をリノベーションした、というこちらは『ヨネヤ』。夜は選りすぐりの日本酒と心地いい音楽が楽しめるバーとして、昼は週に3回、こだわりのおにぎりを販売するおにぎり屋として営業している。

深田台の地に100年ある米問屋を日本酒バーに

『ヨネヤ』の前に立つと、まず外観の佇まいをじっくり眺めてしまう。明治末期に建てられ、関東大震災でも倒れなかったというその建物は、地域に長らく根づいた米問屋だったのだそう。この味わい深い店構えに惚れこんだのが店主の仲山慶さんだ。 
「以前から、いつか日本酒の店を開きたいと思っていたのですが、ある日友人から『いい建物がある』と教えてもらったんです。米と日本酒は切っても切れない関係。建築としてのカッコ良さはもちろん、米問屋だった歴史を聞いて『やるならここしかない』と」
戦時中に米の配給をしていたときの帳面が残っていたほど、建物の内部は当時のまま。この雰囲気を残すため、リノベーションは最低限に留め、扉や窓など使えるものは残すことに。そのぶん気を配ったのは、立ち飲みしやすいカウンターと照明の柔らかさ。コンセントもあちこちに配置し、誰でも日常の延長でふらりと飲みに来られる空間をつくりあげた。

今飲んでほしい日本酒と、ぴったりのアテを用意

 

全国各地の蔵元に足を運んで仕入れたものを中心に、置いている日本酒は常時15~18銘柄。最近の“推し日本酒”について聞いてみた。
「まずは秋田・栗林酒造店の『春霞 赤〈純米〉』ですね。『美郷錦』という酒米と蔵付分離酵母(亀山酵母)だけでつくるまっすぐなお酒で、風味豊かなのにすっきりと飲める。食中酒にぴったりなんです」
ほかにも、ぜひ飲んでみてほしいのが、近年ますますレベルが高まっている地元・神奈川の日本酒なのだという。
「丹沢山系がある神奈川には水のおいしい土地が多いですし、最近では代替わりが進んで若い当主ががんばっている蔵元がたくさん。全国区になりつつある銘柄も増えており、そのポテンシャルの高さに期待しています」
日本酒に合う、という観点から取り揃えた“アテ”は『数の子クリームチーズ』『酒粕レーズンのハニーディップ』など、飲んべえなら名前を聞くだけで一杯いきたくなるラインナップばかり。

DJにして、酒屋の老舗『ヒトモト』の8代目

 

お酒に造詣が深い理由について伺うと、「家が酒屋なんですよ」と仲山さん。それもそのはず、実家は横須賀で明治期に開業、130年以上もの歴史を持つ地元の老舗酒店『ヒトモト』。仲山さんで8代目に当たる、というお酒の専門家系なのだ。日本酒バーをつくったのも、「お酒」という文化を守り継いでいきたいという思いから。
「僕自身お酒が好きですし、嗜好品という以外にも、人とつながるコミュニケーションツールのひとつだと思うんです。お酒を使って人を楽しませたい、と思うとやっぱり飲食店であり、いい酒場かなって」
どの蔵元にも思いがあり、酒が生まれてくるまでの物語がある。日本酒を飲んでもらいながら、つくり手のストーリーも伝えていけるのがこの店の強みだと考えているそうだ。
お酒だけにとどまらず、店内に流れる音楽にもこだわりがある。実は仲山さん、『ヨネヤ』店主のほかに、クラブシーンでの第一線で活躍するプロのDJという顔を持つからだ。 
「それもあって、“お酒と音楽”は僕の中で切り離せないものなんですよね。自分が聴いてきた音楽をお客さまと共有したいな、という思いで、ジャズや90年代R&B、ローファイビーツなど、時間帯にあったいい曲を、いい音で鳴らしています。お酒や音楽に詳しいかどうかは関係なく、シンプルに『この曲いいね、このお酒おいしいね』って、気持ちよく過ごしてもらえたら嬉しいです」
天井から下がっているのは、音楽好きの熱い視線を集める『Taguchi Craft』のオリジナルスピーカー。独特の六面体の形状で、店のどこにいても音の反響が得られるのだとか。店内にはDJブースも設置してある。音楽ライブやDJイベントも定期的に開催していく予定だ。

おにぎりの、最後のひと口までおいしく

忘れてはいけない、『ヨネヤ』のもうひとつのお楽しみ。それは“お米”つながりで、週3回の昼間だけ、おにぎり屋さんになることだ。梅やこんぶ、おかかといった定番の具材のほか、気まぐれメニューとして『卵黄醤油漬け』などの変わりおにぎりも登場する。 
「僕を含めたヨネヤの仲間は、県内の老舗おにぎり屋でみっちり修行させてもらいました。お米のおいしさを味わっていただきたいので、程よい固さに炊いたコシヒカリをふんわり握っています。最初のひと口から最後のひと口まで、しっかり中の具材を味わえるのも特徴なんです」
仕上げに巻く海苔は地元・走水産。豊かな香りと歯切れの良さが魅力なのだとか。最近の売れ筋は『明太クリームチーズ』だが、ファンが多いのは上町銀座商店街にあるおそば屋『春日野』の天かすをごはんに混ぜた『たぬき』おにぎり。
「『春日野』さんの天かすは天丼をつくる際に出るものなので、油に魚介の旨みが染みこんでいます。おかげ様で『たぬき』の味もグレードアップしました」
基本はテイクアウトだが、店内のスペースでおにぎりを食べることもできる。ご近所の方を中心に、営業日は毎日買いに来る常連さん、散歩がてら見つけてくれる人と静かな裏道にも賑わいが生まれている。「上町も深田台も、住民の方々が温かく見守ってくれているのを感じます」と仲山さん。古くから横須賀の中心地で、商売を営む人が多くいるこのエリアには、商人の助け合い文化が根づいているのかもしれない。
豊島小学校の卒業生として、幼少期は上町で多くの時間を過ごしたとのこと。街の賑わいにも寄与していきたい、という仲山さんの思いは強い。
「子ども時代と比べると、商店街はシャッターが降りている店が増えたけれど、最近は若い世代がオープンした店も少しずつ増えてきました。長年住んだ東京も大好きですが、僕はやっぱり横須賀の“人”が好き。地元を盛り上げたい、と前を向いている人がたくさんいるんで、そういう人たちがホッとひと息つける場所でありたい。目指すのは地元に愛される店です」
ひとりでゆったり飲むもよし、杯を片手に仲間と語らうもよし。もちろん、具沢山のおにぎりを頬張るのもよし。昼と夜、どちらの『ヨネヤ』でも心地よい時間が過ごせそうだ。 
Staff Credit
Written by Aki Kiuchi
Photographed by Io Takeuchi
Information
住所:神奈川県横須賀市深田台41
営業時間:
昼ヨネヤ🍙木、金、土 10:00-13:00
夜ヨネヤ🍶火、水、木、金、土 17:00-22:00 /日 15:00-22:00
定休日:月曜
駐車場なし(お店の近隣にコインパーキングあり)

★詳しくはInstagramをご覧ください。
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