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横振り刺繍が彩るスカジャンの美しさを世界へ。コーバスタジオが目指す未来①

2026-02-19Knot

スカジャン発祥の地と言われるドブ板通りに、新たなスカジャンの店「コーバスタジオ」がオープンしたのは2023年のこと。伝統的な横振り刺繡の技術を使い作り上げられたスカジャンは、国内外で高い評価を得ている。 そんなコーバスタジオの山上大輔さんが考える、スカジャンというアートについて話を伺った。

横須賀のスカジャンが持つ歴史と技術

横須賀にとって、スカジャンとは何か?
その歴史は戦後間もないところから始まる。横須賀に滞在していた米兵が、自国に持ち帰るために刺繍を入れてもらうよう、地元の仕立て屋や刺繍職人に注文。それらがお土産品の一種である「スーベニアジャケット」の名で呼ばれるようになった。これが、スカジャンの原型と言われている。
山上さんは、「ジャケットに刺繍が入って、サテンの素材にリブが入っていて、ちょっと絞ったシルエット。それが今のスカジャンです」と話す。
戦後の混乱期に生まれ、世の中が目まぐるしく経済成長を遂げた時期に製造が本格化したため、その歴史に関してははっきりしていない部分もあるようだ。
「90年代には今の形として固まっていたようです。最初は襟付きだったものもスカジャンと呼ばれていました。基本的には龍・虎・鷹といった意匠が多いですが、シロクマや海洋生物などが刺繍されたものもあるようです。今うちはオーダーメイドを請け負っているので、お客さんの希望のデザインも可能ですよ」
近年、ブルーノ・マーズがCMやMVで着用。世界的アーティストにふさわしい華やかでキャッチ―なビジュアルは世界中で注目を集めた。また、横須賀を地盤とする小泉進次郎氏がアメリカへのギフトとして選んだことでも話題になった。
スカジャンに欠かせないのが、刺繍技術だ。現在は9割がコンピューター刺繍であり、職人がミシンを操作する「横振り刺繍」は技術の継承が喫緊の課題となっている。
「足や膝で縫う幅をコントロールし、振り幅を広くしたり狭くしたりできる刺繍です。手元の動きと、足のペダルでスピードをコントロールして刺繍していきます。全身でやらなきゃいけない刺繍ですね」
普通、ミシンの針は上下に動く。しかし、横振りは左右にも動かすことで、立体的な刺繍を施すことができる。細やかな調整と職人の技術が必要となる横振り刺繍は、帯や着物の打ち掛けなどにも使われていた。
スーベニアジャケットのオーダーは、横須賀から群馬県・桐生市に発注されていた。「西の西陣・東の桐生」と称される桐生市は、関東や東北から刺繍職人が修行に集まっていた。
かつては桐生市だけでも、横振り刺繍職人は1万人ほどいたと言われる。令和の現在では、プロの職人はわずか50名程度。横振り刺繍の会社も、20〜30社から9社程度まで減少しているそうだ。
「僕が刺繍を始めた時は、インターネット上に横振り刺繍の情報なんかほとんどなくて。刺繍をするためにミシンを買おうと思っても、製造が終わっちゃっていたなんてこともあった。基本的に中古のものを買って、独学で直してみるしかない状況だったんですね。中古のミシンをジャンクで買って動かせるまでに半年かかりました」

横振り刺繍に惹かれ、往復6時間の道のりを通った日々

山上さんがスカジャン、そして横振り刺繍に出会ったのは、自分のデザインをスカジャンに仕立てようと、横須賀の職人さんにお願いしたことがきっかけだったそうだ。
「その時は結構複雑なデザインをお願いしたのだけれども、一生懸命再現しようとしてくださった。今は人間がコンピューターに打ち込めば、一発で刺繍も出来上がる時代です。出来上がった刺繍に、人間の意思のようなものを感じたんですよ。料理とか、”思いがこもっている”って言い方があるじゃないですか。それが形になって現れていると感じました」
オーダーしたデザインの出来栄えに感銘を受けつつ、ふと、「自分自身で刺繍を施せば、自分のデザインを100%再現できるのでは」という思いがよぎった。そのオーダーをした刺繍職人のもとに通い始めたが、指導の教室がある状況ではなかったため、山上さんは群馬県桐生市の、大澤翔会・大澤紀代美(きよみ)氏の門をたたいた。工業品と言われた横振り刺繍を作品として価値を持つまでに高めた、第一人者だ。
「大澤先生は横振り刺繍の立役者で、今まで500人以上の生徒さんを教えてこられました。3年間、桐生まで通いました。往復6時間くらいかけて」
2022年、横須賀美術館で「スカジャン展」が開催された。これはスカジャンをアートとして再構築しようという試みで、山上さんは同年に独立、どぶ板通りにコーバスタジオをオープンした。店の前に立つと、ガラス越しに山上さんが刺繍作業をしているのが見える。
「スカジャン展が、スカジャンをいち工芸品ではなく、アートとして捉えようという機運を高めてくれて、独立の後押しになりました。スカジャンの全盛期には、ミシンが6台くらい並んで、職人さんが縫っている工房が通りから見れたらしいんですよ。僕がスカジャンをオーダーした2017年あたりは、そういうのもなくなっちゃっていた。『横須賀でスカジャンが作られている』という目に見える証拠がなかったんですよね。じゃあ、もう自分でやるしかないかなと」
自分のデザインでスカジャンをオーダーしてから、8年の間に、山上さん自身の道が大きく変化したことになる。この間に、スカジャンを取り巻く環境も同様に変化期を迎えていた。

技術の継承を目指しながら、職人としても歩み続ける

2020年代、スカジャンの技術を持つ職人は高齢化し、「細かい刺繍ができなくなった」と引退を決める人も続出している。また、ミシンの製造が終わるだけではなく、横振り刺繍に欠かせない「木枠」の職人も廃業しているという。
「横振り刺繍では、縫う場所を木枠で囲み、固定します。この枠を作る技術が職人さんの廃業で途絶えてしまっていて。だからミシンもそうですけど、新たに始めようと思っても、道具が揃えられないという状況です」
ミシンも、メンテナンスができる職人がおらず、自分で直すしかないそうだ。これでは、始めたいと思う人がいても、参入のハードルは高くなってしまう。刺繍そのものだけでなく、周辺の技術に関しても継承が課題となっている。
「人気に反して、職人が減り、現状オーダーメイドは3年待ちなんていう状態です。やめてしまったところもありますし……うちも、以前は数か月でお届けできていましたが、今は1年お待ちいただきますね」
横振り刺繍の職人として経験を積んできた山上さんは現在、生徒を持ち、技術の継承にも力を注ぎ始めている。
コーバスタジオの店舗の隣には、「スター・ロータス」という、アトリエがある。ここで2025年1月から、11人の生徒がスカジャンの刺繍を学んでいる。下は20代から上は50代半ばの男女が、月に1回通う。
「通常、刺繍の修行は10年かかると言われていました。でも、僕の兄弟子が大変な才能の持ち主で、5年で独立したんです。僕は、大体3年。伝統文化ってあまり教えない風潮でしたから、もっとしっかりカリキュラムを詰めて、惜しみなく教えたら期間を短くできるんじゃないか。熱意と集中力と環境次第でどうにかなるんじゃないかと思って始めました」
自らの経験を基にした目論見は当たった。熱心な生徒たちは、めきめきと上達、既にプロレベルの生徒も現れている。
「プロレベルと言える生徒さんはすでに2人いますね。1人は既に僕の仕事を手伝って、オーダーメイドも請け始めています」
スター・ロータスという名前には、泥の中から咲く蓮の花のように、「どぶ」板通りから輝くスターが誕生してほしいとの願いを込めたそうだ。
技術が途絶えかけている中で職人となった山上さんは、己を「中継ぎ」とも称していた。  横振り刺繡の職人として日々技術を磨きながら、スカジャンの振興、技術の継承にも取り組む。 まるで蓮の花が咲くのに欠かせない太陽のごとく、人々を照らしている。
Staff Credit
Written by Naomi Uno
Photo by Io Takeuchi
Information
住所:横須賀市本町2-1
営業日:11:00〜18:00
定休日;水曜
駐車場:なし
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