横須賀中央や汐入の駅から、直線距離はわずか数百メートルにも関わらず、車の入れない、閑静な場所がある。 この場所で「問室-toishitsu-」や「tokotonベース」の運営で地域活性化に取り組んできたプロジェクトチーム『Homiiie(ホミー)』。この度「やとと」と名を改め、新たに民泊事業をスタートさせる。 なぜ谷戸に民泊を作るのか。代表である藤原さんにお話を伺った。
やととのまちへの思い。民泊オープンに向けて。
「谷戸」という名称には諸説あるが、主に山あいの湿地帯を指す言葉だそう。山・谷どちらの場合も「谷戸」と称する。横須賀においては、山あいの斜面などに、細く入り組んだ道沿いにできた住宅地を谷戸地域と呼ぶ人が多い。
車が入れない急こう配なことも多く、市の中心部から近いにも関わらず、全く違う雰囲気が漂う。こうした場所は横須賀にはたくさんある。

横須賀中央駅・汐入駅、どちらからも近い谷戸地域に建つ、歴史ある洋館。そこをリノベーションの上、藤原さんたちは民泊事業をはじめることにした。
もともとはメンバーのひとりが運営していたシェアハウスだった建物を、民泊へと生まれ変わらせる予定。今までやととが手掛けてきた、ものづくりが体験できてキッチンも兼ね備えた「tokotonベース」、以前KNOTでも紹介した新しい気づきに出会うための場「問室-toishitsu-」とも近い場所だ。

「実験室を兼ね備えた民泊になる予定です」
藤原さんの口から飛び出した、”実験室”という言葉は、新たな挑戦について端的に表している。プランニングから設計、解体が終わり、内装を進めている現在。
今後はリノベーションに並行して集客や広報など、ソフト面を準備するフェーズをさらに詰めていくという。

「ゆたかな暮らし」を掲げるやととは、草木染めやアートの展示などのイベントを行ってきた。努力の甲斐あって、たくさんの人が谷戸地域を訪れてくれた。しかし、来て帰るだけでは「暮らし」とは言えない。
来てくれた人が地に足をつけた体験ができる施設がほしい。宿泊・滞在できる場所が必要だと、藤原さんたちは考えていた。

「今回民泊にする建物は、うちのメンバーがこの地で活動するきっかけとなった洋館です。歴史ある、地域のシンボルのようなクラシカルな建物。自分たちの暮らしを体験してもらうために、民泊へとシフトチェンジしてみようという話になりました。」
先ほどの『実験室』とは、宿泊者や地元の人が参加するワークショップ・ものづくりのイベントなどを実施するスペースの名称。蒸留や草木染、『谷戸の暮らし』を体験できるコンテンツを用意する計画だ。また、ここはメンバー会議や商品開発など、やととの拠点、ラボとしても使う予定だと話す。
「地域ゆかりのアーティストさんの作品を掲示するなど、今までの繋がりを活かした場にします」
まちづくりのソフト面を担当する藤原さん、趣味で大工をやっている川合さん、それぞれが独自の経験と知識を持つ。
方向性やイベントの企画、家具のチョイスやインテリア・デザインに至るまで各々の専門分野を活かし、話し合いながら進めている。
地域住民への説明も行いながら2026年4月にはプレオープン、5月にオープンというスケジュールだそう。

谷戸地域を「まるごとおうち」に。
「この地域は旅館やホテルの営業ができないんです。でも、そこがアドバンテージだと逆に思っていて。住宅街だからこそ、そこで暮らす人が身近で、地域に根ざした宿泊体験ができると考えています」
それには地域住民からの協力、理解も必要不可欠となる。
「私たちの活動は、地域の方々の応援にとても支えられています。高齢の方も多いですから、若い世代の活動を純粋に喜んで、惜しみなくサポートしてくれていて、ありがたい限りです」

域外から人が訪れ、谷戸がにぎわっていることが嬉しいと、イベントやワークショップにもよく参加してくれている。
リノベーション時には、自然と手伝ってくれたり、時には庭の草刈りを気づかないうちに終えてくれたりという人もいたそうだ。
祭りでお神輿をかつぐなど、町内会にも参加し、地域住民とは積極的に関わっている。
町内会からのオファーで地域の人が休めるベンチを街角に設置するなど、住民との交流が新たな取り組みにも繋がっている。
なぜ、空き家問題が全国で深刻化しているのか。それはライフスタイルの変化に伴い、一軒家が『住みづらい』『広すぎる』空間になってしまったことが理由のひとつだ。かつての祖父母同居、兄弟の多かった時代とは違い、今は核家族化して世帯人数も減っている。やととはあえて、”地域をひとつの家として捉える=衣食住の役割と分散させる” ことに挑戦する。
「大きいキッチンはtokotonベースにあるから、皆で集まってご飯が食べられる。ゆっくり本を読みたければ問室を書斎として活用すればいい。人と交流して、草木染やアートを楽しむ場所として”実験室”があって、寝ようかとなったら民泊がある。地域を大きな家として、『まるごとおうち』にしたいんです」
家という機能を拡張し、地域での交流を推進する。その取り組みは、やととの目指す “ゆたかな暮らし” へと繋がっている。
「今回の民泊事業は、民泊を経営することが目的ではないんです。いろんなことをやってきて、その中で必要な機能を考えた時に、泊まる場所が必要になったので、民泊を始めた。私たちは、ずっとこうしたことを繰り返しているんです」

谷戸地域にはそこにしかない暮らしがあると藤原さんは語る。
住人でなくても、「ゆたかな暮らし」に触れることができる。これが民泊に期待される役割だ。
横須賀中央から徒歩15分、階段と坂を登ったら会える別世界は、これからもどんどん広がっていく。
Staff Credit
Written by Natsumi Uno
Photographed by Io Takeuchi, Junko Ito, Kana Fujiwara
Written by Natsumi Uno
Photographed by Io Takeuchi, Junko Ito, Kana Fujiwara

